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京都地方裁判所 昭和44年(ワ)920号 判決

判決

原告

京都ダイハツ販売株式会社

代理人

酒見哲郎

被告

大浦清一

主文

被告が訴外安岡正智に対する京都地方法務局所属公証人中道武次作成第七三、三四三号公正証書の執行力ある正本に基いて昭和四四年六月二三日別紙目録記載各物件に対してなした強制執行は許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件について、当裁判所が昭和四四年七月五日なした強制執行停止決定はこれ認可する。

前項に限り仮執行ができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、別紙目録記載各物件について、訴外山中光雄から差押えを受けていたので被告は主文第一項記載の債務名義に基づいて昭和四四年六月二三日京都地方裁判所執行官をして右各物件について照査手続をさせた。

二、然し右各物件は、もと訴外安岡正智の所有であつたが原告が昭和四三年六月一日訴外安岡正智から、原告と同訴外人との間の同日付継続的売買並びに譲渡担保設定契約に基づいて右訴外人が現在および将来原告に対して負担する一切の債務の担保として、その所有権の移転並びに占有改定の方法によつてその引渡しを受け、自後原告か右訴外人に対し無償で使用させているものである。

三、別紙目録記載各物件の差押見積代価は合計金一二三、〇〇〇円であるのに、原告の右訴外人に対する昭和四四年四月三日現在における債権額は金二、六二六、七四〇円にして、今日までこれが弁済を受けていない。

四、よつて、原告は被告に対し、被告の前記照査手続の排除を求めるため本訴請求におよぶ旨陳述した。

被告は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、

一、答弁として、原告主張の請求原因事実はすべて認める旨陳べた。

当裁判所は昭和四四年七月五日本件強制執行を本案判決があるまで停止する旨の決定をした。

理由

一原告主張の請求原因一ないし三の各事実は当事者間に争いがない。

二およそ、債権担保のために所有権移転の形式をとる譲渡担保の場合、常に債権者には優先弁済を得させればよいとして、強制執行の続行を許し、債権者のために債権額の供託を命ずるものとすれば、その目的物件の価格が債権額に満たないときには、強制執行の続行を許しても執行債権者にとつて、何ら得るところがないのに、債権者に対しては清算を強いることとなり、目的物件が債務者にとつて営業用のものであるときはその営業が継続できなくなる虞も考えられるので、このようなときには、債権者はその目的物件に対し所有権を主張して、強制執行の排除を求めることができるものと解すべきである。

三本件の場合には、譲渡担保の目的物件の価格が債権額に満たないときに該当するので、原告の本訴請求は相当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可およびその仮執行の宣言について、同法第五六〇条、第五四九条、第五四八条を各適用して主文のとおり判決する。(常安政夫)

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